大喜利ポエム#004 「電気・酒・鍋」

いつか、家族の絆をもう一度、つなぎたい。私は小さな頃から父親の暴力を受けてきた。

中学生の時に耐えられずに家を出てから2年間、親戚の家から2時間かけて学校に通った。高校生になり家に戻ったが長続きせず一人で暮らしはじめ、私は新聞配達とマクドナルドのアルバイトをして生活費を捻出した。

大学の入学を決めた時、父親は大喜びしてくれた。学歴という共通項がようやくつないだ私と父との関係も、でも結局長くは続かなかった。その頃父親が病気で失明したこともあり、私は大学の授業料と生活費を稼ぎながら学生生活を過ごすことになった。

電気が止まる、という経験を生まれて初めて味わったのもこの頃だ。ある日突然それは起こる。今まで何事もなく照らしていた明かりは失われた。なんとなく、私はこの世で変わらないことはないんだと知った。


父親は昔気質の厳しさが足かせとなりうまく世の中を渡れない人だった。伴侶である母親にとっても彼といることは不幸であるようだった。私の存在がなんとか保っていた家のバランスは、結局私が東京で下宿するようになってすぐ、破綻した。母親は家を出て、妹二人も高校生活を諦め、家を出た。しばらくは地方の山村で住込みで働いていたらしいが、今なにをしているかは全く分からない。

酒が原因だったって父は言ってたけど、私はそれが原因だとは思わない。今となってはもう確かめようがないけれど。


両親の信条から得たものと、昼間部の学生にも関わらずフルタイムで働かざるを得なかった状況を、私はバネにして大きく成長できたと思う。私は両親二人のバランスをとっているつもりだったのだが、同時に両親の互いに極端な性格もバランス良く取り込めたのかもしれない。どんな状況にも柔軟に対応できる適応力や忍耐力も、冬の朝、つらくて仕方がなかった新聞配達の経験がきっかけとなって培われていった気がする。

私に様々な可能性を与えてくれたこの家に十年後の自分ができることは、もう一度家を取り戻すことだ。とりあえず父親と母親と妹を東京に招待して、これまで味わったことのないくらいおいしいものを食べにいこう。それは家族の為であるが、なにより自分自身の過去の清算でもある。


鍋とかも食べたいな。私、家族で楽しく鍋を囲んで食べた経験とか、あんまりないんだ。